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京都で相続した家は「すぐ売る」べき?それとも「運用」すべき?

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― 不動産価格高騰時代に考える、相続不動産の賢い活用法 ―

近年の物価上昇や不動産価格の高騰により、「新たに物件を購入して民泊や簡易宿泊施設を開業したい」という相談は、ここ1〜2年でやや落ち着きを見せています。
10年前、京都に民泊が少しずつ誕生し始めた頃と比べると、初期費用(物件取得・改装・備品購入など)は体感で数倍に膨らんでおり、「よし、民泊を始めてみよう」と思い立っても、5,000万円〜1億円規模の投資が必要になるケースも珍しくありません。

確かに宿泊単価も上がっていますが、同時に物価や人件費も上昇しており、借入や返済を考えると心理的なハードルも高いのが現実です。

その一方で、最近では「相続した物件」や「オーナーチェンジ物件」に関する相談が増加しています。
中でも特に注目されているのが、相続した家をどう活用するかというテーマです。
本記事では、「相続した家をすぐ売るべきか」「保有して運用すべきか」について、メリット・デメリットの両面から整理してみます。


1. 相続した不動産をすぐに売却するメリット

日本家屋の空き家
日本家屋の空き家

① 相続税や維持コストの負担を早期に解消できる

不動産を相続すると、相続税評価額に基づいて税金が課されます。
相続税の納付期限(相続開始から10か月以内)までに現金化できれば、納税資金の確保が容易です。
また、保有を続ければ固定資産税・都市計画税・火災保険・修繕費などの維持コストが毎年発生します。
これらの負担を早期に回避できる点は、売却の大きなメリットといえます。


② 不動産価格下落リスクを回避できる

地域や築年数によっては、今後の資産価値が下がる可能性もあります。
特に人口減少地域や老朽化した建物では、早期売却が高値売却につながるケースも多いです。
ただし、京都市中心部のような人気エリアでは、中期的には資産価値が安定または上昇する可能性が高く、一概に「すぐ売るのが得」とは言い切れません。


③ 相続人同士のトラブルを防止できる

複数人で相続した場合、共有名義のまま不動産を保有すると、管理・修繕・売却の判断で意見が分かれることがあります。
売却によって現金化すれば、分配が明確になりトラブル防止につながるという点も見逃せません。


2. すぐ売却するデメリット

① 譲渡所得税の負担が発生する可能性

相続した不動産を売却する場合、「被相続人の取得時期・取得費」を引き継ぎます。
被相続人が取得してから5年未満の場合は**短期譲渡扱い(税率約39%)**となり、売却益が大きいほど税負担が重くなります。
ただし、被相続人が長期保有していた場合は「長期譲渡」として軽減税率が適用されることもあるため、個別に確認が必要です。


② 居住用財産の特別控除が使えない場合がある

「居住用財産の3,000万円特別控除」は、一定の条件を満たせば相続後の売却でも利用できます。
しかし、長期間空き家のまま放置した場合や、構造・用途に変更があった場合は対象外となり、控除が使えず税負担が増えることもあります。


③ 将来的な資産価値上昇の機会を逃す

再開発エリアや観光需要の高い地域では、今後地価上昇や賃貸需要の拡大が見込まれる場合があります。
このような物件をすぐに売却してしまうと、将来得られるはずの賃料収入や値上がり益を逃すことになります。


3. 相続した不動産を「運用」した場合の主な優遇と効果

① 固定資産税・都市計画税の軽減(住宅用地特例)

相続後に不動産を賃貸住宅として運用する場合、土地の固定資産税が最大6分の1に軽減されます。

  • 小規模住宅用地(200㎡以下)→ 課税標準 × 1/6
  • 一般住宅用地(200㎡超)→ 課税標準 × 1/3

空き家のままではこの特例を受けられませんが、賃貸に出せば軽減対象となります。


② 相続税評価額の圧縮効果(貸家評価)

賃貸住宅として貸し出すと、土地と建物の評価額を引き下げることができます。

  • 建物部分:固定資産税評価額 × (1 − 賃貸割合 × 借家権割合[約30%])
  • 土地部分:自用地評価 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合)

たとえば、借地権割合60%、借家権割合30%の地域では、土地評価が約18%減・建物評価が約30%減になるケースもあります。
これは相続税の節税効果が大きく、さらに継続的に賃貸していれば次の相続(2次相続)でも有利になります。


③ 経費計上・減価償却による所得税の節税

賃貸経営では、建物部分の減価償却費修繕・リフォーム費用、仲介手数料、管理費などを経費として計上できます。
青色申告を行えば、65万円の特別控除や赤字繰越も活用可能で、所得税・住民税の節税に大きく寄与します。


4. どちらを選ぶべきか?

相続した不動産をどう扱うかは、年齢・家族構成・ライフプラン・資金状況によって最適解が異なります。

一般的には、

  • 相続人が比較的若く、長期的な資産運用を考えている
  • 立地や建物に一定の価値がある
  • 将来的に現金化のタイミングが未定

といった条件であれば、すぐ売却するよりも賃貸運用を選ぶ方が、資産形成と節税の両面で有利です。


おわりに

不動産の売却は一度きりの選択ですが、運用には将来の柔軟性があります。
相続した家を単なる負担ではなく、「資産」として活かすためには、まず売却・賃貸・民泊運用の3つを冷静に比較検討することをご提案しています。

次回は、相続した家を「賃貸運用」する場合と「民泊(簡易宿泊)」として運営する場合の違いを、収益性やリスクの観点等から比較してみたいと思います。

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    相続した家をどうするか――。売却して現金化するか、それとも賃貸に出して家賃収入を得るか。多くの方がこの二択で悩みます。しかし、実はもう一つの選択肢があります。それが「民泊」という新しい活用方法です。観光需要の高まりとともに、使われていない家が“人を迎える場所”へと生まれ変わる時代。思い出の詰まった家を手放さず、収益にもつなげられる民泊運営は、相続後の新しいライフプランとして注目されています。

    今回は、長期賃貸運用と民泊運用を税引後の実収益ベースで比較し、それぞれのメリット・デメリットをわかりやすく解説します。

    想定条件(モデルケース)

    項目内容
    物件木造一戸建て(延床100㎡・築25年)
    相続時評価額土地2,000万円+建物500万円
    立地京都市中心部に近い住宅地
    運営方式①長期賃貸(居住用) vs ②民泊(簡易宿所または届出住宅)
    青色申告あり(個人事業主として申告)

    年間収支比較(税引後シミュレーション)

    項目① 長期賃貸② 民泊運用(Airbnb型)
    稼働率100%65%(約240日稼働)
    賃料・単価月18万円平均2万円/泊
    年間売上216万円約480万円
    運営経費△40万円△180万円(清掃・光熱費など)
    管理費・手数料△10万円△30万円(OTA手数料含む)
    固定資産税・保険△20万円△20万円
    減価償却費△15万円△15万円
    営業利益(青色前)131万円235万円
    青色申告控除△65万円△65万円
    課税所得66万円170万円
    所得税+住民税(30%)△20万円△51万円
    税引後手取り利益約111万円/年約184万円/年

    民泊は税引後でも賃貸の約1.7倍の手取りが期待できます。
    (※モデルケースをベースにした一例)
    宿泊単価の通り、この事例は高単価で運用するタイプではありません。リフォームプランを組み込むことによって、より単価の高い民泊を作ることも可能です。上記モデルは低価格~中価格帯の間ほどのイメージです。立ち上げる民泊の質を高めることによって、一般的な家賃の相場の5倍以上というケースもあり、2倍、3倍程度は珍しいことではありません。


    メリット・デメリット比較

    観点長期賃貸民泊
    税制優遇青色控除・貸家評価あり経費範囲広いが消費税課税あり
    安定性高い(固定家賃)変動大(稼働・季節依存)
    管理負担低い(委託可)高い(清掃・顧客対応)
    法規制緩い民泊新法・旅館業法・消防対応必要
    相続税評価貸家評価で減額可旅館業用途は対象外のことも
    金融評価安定資産として強い事業リスク高く審査厳しめ

    今回の事例では、一戸建てを想定しています。月額18万円という設定からも、ある程度の広さがあり、交通の便も比較的良い立地を想定しています。法規制については、管理会社や行政書士などの専門家が対応するため、旅館業としての基本的な条件を満たしていれば大きな障壁にはならないでしょう。安定性の面では、災害や景気の影響を受けやすい民泊よりも賃貸の方が優位といえますが、家賃が固定されているとはいえ、空室リスクがまったくないわけではありません。


    税務上の違い

    税目長期賃貸民泊
    所得区分不動産所得事業所得または雑所得
    消費税非課税売上1,000万円超で課税事業者
    相続税評価貸家評価で減額減額対象外になる場合あり
    経費範囲修繕・保険など清掃・光熱・OTA手数料など広範

    総合評価

    タイプ向いている人
    🏡 長期賃貸型安定収入・手間をかけたくない人/相続税対策を重視する人
    🏨 民泊運用型観光地立地で稼働率が高い人/収益最大化を狙う人

    まとめ

    観点賃貸民泊
    税引後収益約111万円約184万円
    利回り(評価額2,500万円)約4.4%約7.4%
    運営負担
    リスク小~中中~大

    ・短期的な利益重視 → 民泊
    稼働率65〜70%以上を維持できれば、手取りは賃貸の1.5〜2倍。これはあくまでもサンプルモデルをベースにした一例です。一定の売り上げ規模になってくると消費税課税もあります。大きな災害等による影響は大きいが、その時は賃貸への転用も可能である。

    ・長期的な安定運用・節税重視 → 賃貸
    貸家評価による相続税圧縮や管理負担の少なさが魅力。将来の相続にも有利に働くケースが多い。民泊と比較するとリスクは少ない印象ではあるが、賃貸運営にも家賃滞納、入居者トラブル、原状回復などのトラブルはつきもの。

  • 大阪民泊特区
    スタッフブログ

    大阪での特区民泊の新規受付停止は、民泊業界における重要な転換点となっています。観光需要の高さと地域住民との調和という二律背反する課題が極限に達した結果であり、その影響は全国の自治体、特に厳しい条例を持つ京都エリアにとって無視できないものとなっています。本記事では、大阪の特区民泊の背景、新規受付停止の動き、そして条例の厳しい京都エリアへの影響の可能性について考察します。

    特区民泊が大阪に集中した背景

    大阪民泊特区

    国家戦略特別区域法に基づく「特区民泊」は、マンションの一室や一軒家を宿泊施設として通年で営業できる制度です。民泊新法(住宅宿泊事業法)の年間180日という上限規制を受けない自由度の高さが特徴となっています。2025年6月末時点で全国8自治体計6,899件が認定を受けていますが[引用1] 、その約95%が大阪市に集中するという異常事態となっていました。

    大阪市が特区民泊を導入したのは、大阪・関西万博の開催を控え、宿泊施設の不足が懸念された平成28年10月です。大阪は、大阪城や道頓堀などの観光名所に恵まれ、さらに関西国際空港や外国人に人気の高い京都にもアクセスしやすいという立地上の優位性がありました。令和6年に大阪府内を訪れた訪日客は1,459万1千人にのぼり、訪日客全体の約4割を占めるほどの高い宿泊需要が存在します。

    このような需要を背景に、特区民泊は「賃貸物件より稼げ、宿泊業としては旅館、ホテルより始めやすい」とされ、圧倒的に参入ハードルが低いことが強調されてきました。宿泊予約システムや清掃(ベッドメイキングなど)の代行業者が存在するため、運営が比較的容易であることも参入を加速させました。さらに、事業がうまくいかなかった場合も賃貸に切り替えられるという稼ぎやすい仕組みが整っていたため、海外からも注目され、外国人の不動産取得の素地にもなりました。

    大阪市は、社会問題化していた旅館業法の許可を得ない「ヤミ民泊」に対応するための一側面として特区民泊を導入し、今年4月末までに、特区民泊への移行や廃業を含め、6,539件で違法状態の解消を実現したという側面もありました。

    規制強化の引き金となった大規模化と住民トラブル

    しかし、特区民泊の拡大とともに、騒音やごみ出しを巡る地域住民とのトラブルが顕在化しました。特に、特区民泊の認定を規制する規定がないことから、今年6月下旬には大阪市此花区で全212室が特区民泊のマンションが開業するなど、大規模化が進んだことが問題視されています。大規模な施設が増えることで、宿泊客の増加に伴いトラブル発生の可能性が高まるという懸念が住民から示され、実際に未明の消防出動や宿泊者の水難事故なども発生しています。

    複数の民泊関係者は、こうした特区民泊の大規模化の背景を、状況が変わり「第2段階に入った」ためだと指摘しています。事業としての採算性や課題点が整理される中で、資本力がある企業も参入する地ならしが進み、テレビCMを展開するような事業者も目立つようになっています。同時に、民泊の適地も限られ始め、素人では参入できない状況となり、サービス面で差別化できない施設は淘汰される可能性があるという指摘も出ています。

    こうした状況を受け、大阪市は地域住民への影響を考慮し2026年5月30日以降、特区民泊の新規申請受付を停止する方針を固めました。大阪府が管轄する政令市・中核市を除く29市町村もこの流れに乗り、「全域で取りやめる」方針を固めており、大阪全域で規制の波が広がる見通しです。

    特区が存在しない京都の現状と規制の可能性

    今回の大阪での規制強化の動きは、特区民泊を持たないものの、観光需要が高く、既に厳格な条例を持つ京都エリアにとって、今後の宿泊施設政策を考える上で重要な前例となります。

    京都では、特区民泊がない中で高い宿泊需要に対応するため、民泊新法に基づく施設(ただし規制がかかる)の他、手続きや運営が簡素な旅館業法に基づく簡易宿所が増加しており、約3千件が営業しています[引用2]。これは、京都が全国的に見ても条件が厳しい地域であるにもかかわらず、宿泊需要の高さから施設が増加した結果と言えます。

    しかし、京都は現在、インバウンド増加による混雑(オーバーツーリズム)が深刻化しており、その結果、宿泊料が高騰し、日本人観光客の「京都離れ」が起きています。2025年1〜7月の日本人宿泊者は、前年同期比で10%を超える減少率となり、2024年も2年連続で10%超の減少となる可能性が示唆されています。これは、全国的に国内旅行需要が減少し、海外旅行にシフトし、国内では万博などに局所的に人が集まる一方で、それ以外は減るという需要の二極化が進んでいる傾向の一部でもあります。

    特区民泊の受付停止が、法律である旅館業に対してすぐさま大きなメスを入れる事態にはなりにくいと想定されますが、自治体ごとにこうした流れに乗って規制の動きが広がる可能性は十分にあります。

    財源確保とオーバーツーリズム対策としての京都の新たな動き

    京都 オーバーツーリズム

    施設数の規制とは別に、京都府内では、観光財源の確保やオーバーツーリズム対策を目的とした新たな規制や課税の動きが進んでいます。京都市では、宿泊料金に応じて最高1万円を徴収する宿泊税を導入する予定です。また、京都府北部にある宮津市も府内2例目となる宿泊税の導入を検討しており、宿泊者1人1泊あたり200円を徴収する案が議論されています。

    宮津市が宿泊税を目指す背景には、人口減少が進む中で、プロモーションや夜間観光の充実、多言語案内などの新規事業に約2億円の財源が必要という試算があり、市税収入の減少が見込まれる中で「安定的に財源を確保できる宿泊税が妥当」との判断があります。

    ただし、この宿泊税の導入には宿泊事業者間で賛否が分かれています。宿泊客が年間83万人に対し、日帰り客が217万人と2倍以上いる現状で[引用3] 、宿泊客のみに負担が増えることへの「納得できない」という意見や、将来のオーバーツーリズム対策が必要となる可能性や、観光客の満足度を上げてリピーターを増やすため、きめ細かな制度設計と丁寧な説明が必要であるという意見が出ています。また、日帰り客からの徴収についても検討する余地があるという指摘もあります。

    まとめ

    大阪の特区民泊停止は、自由度の高かった民泊形式の規制強化という点で大きな流れを作り出しました。これにより、宿泊事業は、資本力のある企業による大規模化、あるいは、条例や税制による自治体の管理下での運営という、より厳格なフェーズへと移行することが予想されます。京都エリアでは、既存の厳格な旅館業法に基づく簡易宿所運営に加え、宿泊税による負担増や、日本人観光客の回復という新たな課題に直面することとなり、今後、自治体による観光施策やまちづくりの提言がより重要になると見られます。


     [引用1]https://www.sankei.com/article/20250820-N2WICWQOYFPXTILPPOWU6SVEXE/

     [引用2]https://www.sankei.com/article/20250820-N2WICWQOYFPXTILPPOWU6SVEXE/

     [引用3]https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1587116

  • 統計データ
    スタッフブログ

    観光庁が8月29日に発表した2025年7月の宿泊旅行統計は、日本の観光業が重要な転換点を迎えていることを明確に示しています。延べ宿泊者数が前年同月比1.4%減となり、2カ月連続のマイナスを記録したこの統計は、これまで日本経済を支えてきたインバウンド需要の変化と、国内旅行市場の停滞を浮き彫りにしました。特に京都のような主要観光地にとって、この変化は既存の課題と相まって、新たな戦略の構築を迫る重要な指標となっています。

    2カ月連続マイナスが示す観光業界の現状

    2025年7月の国内宿泊者数は延べ5640万人泊[引用1] となり、前年同月比で1.4%の減少を記録しました。これは6月に続く2カ月連続のマイナスであり、2月に2021年11月以来のマイナスに転じて以降、4月と5月の一時的な回復を経て、再び下降トレンドに入ったことを示しています。

    この減少の背景には、外国人宿泊者数と日本人宿泊者数の双方が前年を下回ったことがあります。外国人宿泊者数は1423万人泊で前年同月比2.5%減、日本人宿泊者数は4217万人泊で同1.1%減となり、これまで日本の観光業を支えてきた両輪が同時に失速する事態となりました。

    大和証券のエコノミストは、この状況について「インバウンド需要は『いったん出尽くし』の感があり、ピークアウトしている」と分析しており、当面は弱い推移が続く可能性を示唆しています。これは、日本の観光業がこれまでの量的拡大から、質的向上へのシフトを求められていることを意味しています。

    外国人観光客の行動変化と消費パターンの変質

    旅行者

    興味深いことに、宿泊者数が減少したにもかかわらず、訪日客数そのものは7月[引用2] に343万7000人と前年同月比4.4%増加し、7月としては過去最多を更新しました。特に中国からの客数増がこれを牽引しており、表面的な数字だけでは見えない構造変化が起きていることがわかります。

    この矛盾は、一人当たりの滞在期間が短くなっているか、ホテルや旅館以外の簡易宿泊施設での宿泊が増えている可能性を示唆しています。実際、訪日客の消費構造では、宿泊費の割合が2024年4~6月期の33.0%から2025年同期には38.5%[引用3] に高まる一方で、買い物代は30.9%から26.2%に下がっており、予算配分の明確な変化が見られます。

    外国人宿泊者数減少の要因として、東アジア各国でSNSを中心に拡散された「7月に日本で大災害が起きる」という根拠不明のデマの影響が指摘されています。このような情報の拡散は、一時的ではあるものの、訪日意欲に直接的な影響を与えることが改めて確認されました。また、昨年対比で進行した円高も影響しており、訪日客にとって日本での高額品購買における割安感が薄れたことが消費行動の変化に現れています。

    日本人の旅行離れが深刻化

    日本人宿泊者数の減少は、さらに深刻な問題を示しています。7月は4217万人泊と前年同月比1.1%減となり、7カ月連続の前年割れを記録しました。これは単なる一時的な落ち込みではなく、構造的な変化を示唆しています。

    旅行は「選択的消費」の代表として位置づけられ、物価の高止まりで削られやすい消費となっています。食料品など日々の生活に不可欠な「基礎的消費」が圧迫される中で、旅行のような「選択的消費」が手控えられている実態が数字に現れており、国内経済の厳しい現状を物語っています。

    この傾向は、単に観光業界の問題にとどまらず、国内消費全体の低迷を示すバロメーターとしても機能しており、日本経済の構造的な課題を浮き彫りにしています。

    京都経済への多層的な影響

    全国的な宿泊統計の変化は、主要観光地である京都に特に大きな影響を与える可能性があります。京都市は既にオーバーツーリズムという深刻な課題に直面しており、2024年秋の調査では、北野天満宮で日本人客が42%減、伏見稲荷大社で23%減を記録する一方で、訪日客は24~46%増となっています。

    この状況下で全国的な外国人宿泊者数の減少が続けば、京都の宿泊施設は稼働率や収益に影響を受ける可能性があります。特に「大災害デマ」や円高の影響が継続する場合、外国人観光客の宿泊期間短縮や、より安価な宿泊施設の選択が進むかもしれません。

    一方で、既に有名観光地から日本人客が減少している中で、全国的な日本人宿泊者数の減少は、日本人による「京都離れ」をさらに加速させる恐れがあります。京都市が推進する分散観光により、日本人客を周辺部に誘導しようと努力しているにもかかわらず、旅行そのものへの意欲が全国的に低下すれば、その効果は限定的になる可能性があります。

    消費構造の変化も京都経済に大きな影響をもたらします。訪日客の消費が買い物から宿泊費にシフトしている傾向は、京都の小売業、特に高額品を扱う店舗にとって逆風となります。円高傾向により、ブランド品などの購買意欲が低下し、百貨店の免税売上高が全国的に減少している状況は、京都の主要な百貨店や土産物店にも同様の課題をもたらしています。

    持続可能な観光モデルへの転換が急務

    現状のペースでは「オーバーツーリズムの深刻化や需要の取りこぼしが生じかねない」状況にあります。京都は既にJR嵯峨野線の通勤ラッシュ並みの混雑や、車道にはみ出して通行する訪日客といった具体的な観光公害に直面しており、人数制限や宿泊税などの対策が急務となっています。

    しかし、宿泊者数の伸びの鈍化は、オーバーツーリズム対策にとって一時的な緩和をもたらす可能性もあります。この機会を活用し、京都は観光客数の量的拡大を追うだけでなく、質の高い観光体験の提供と持続可能な観光モデルの構築に注力すべき時期にあります。

    体験型コンテンツの強化は、その有効な手段の一つです。全国的に日本ならではの体験型消費(握りずし体験など)は引き続き好評で売上高を伸ばしており、京都の豊富な文化的資源を活用した体験型観光の開発は、消費単価の向上と持続可能な観光の両立を図る重要な戦略となります。

    新たな成長モデルの構築に向けて

    2025年7月の宿泊旅行統計が示すデータは、日本の観光業が単純な「回復」フェーズから、より複雑な「成熟」フェーズへと移行していることを明確に示しています。特に京都のような主要観光地は、全国的な宿泊者数減少という新たな課題に加え、既存のオーバーツーリズム、日本人客離れ、消費構造の変化といった多層的な問題に同時に対処しなければなりません。

    今後、京都経済が持続的に発展していくためには、観光客の分散化のさらなる推進、地域住民との共存を図るためのインフラ整備、宿泊税などの財源確保を通じた戦略的投資が不可欠です。これらの取り組みにより、観光を地域社会と共生し、文化と環境を尊重する「持続可能な産業」へと転換させていくことが求められています。 日本の観光業は今、数字の波に一喜一憂するのではなく、長期的な視野に立った確かな戦略と、変化に対応する柔軟性の両方を備えた新たな成長モデルの構築が急務となっています。この転換期を乗り越えることができれば、より強靭で持続可能な観光産業の基盤を築くことができるでしょう。


     [引用1]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL298WFTZ20C25A8000000/

     [引用2]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA200JU0Q5A820C2000000/

     [引用3]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA156IW0V10C25A7000000/