民泊情報ブログ
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日中関係は、高市早苗首相による台湾有事に関する国会答弁をきっかけに、急速に緊迫感を増しています。中国政府はこれに強く反発し、自国民に対して日本への渡航を控えるよう呼びかける異例の事態となりました。この渡航自粛要請は、日本のインバウンド市場と中国関連銘柄に深刻な影響を及ぼしています。
政府の訪日外国人統計によると[※引用1] 、2025年1月から9月までの中国からの訪日客数は前年比42.7%増の748万7200人となり、国・地域別でトップを占めていました。インバウンド市場全体の伸びを牽引していただけに、中国政府による自粛要請は日本の観光関連企業にとって大きな逆風となっています。
日中関係の悪化懸念は、関連銘柄の株価に即座に反映されました。インバウンド期待で買われていた内需銘柄だけでなく、売り圧力は中国関連株全般に広がっています。
11月17日のインバウンド関連銘柄では、三越伊勢丹ホールディングスや高島屋などの百貨店株が5~11%超下落しました。また、ANAホールディングスなどの空運株、西武ホールディングスなどの鉄道株も大きく売り込まれています。
中国での売上比率が高い企業も打撃を受けています。良品計画は10%超安となり、ファーストリテイリング、資生堂、ユニ・チャームも3~9%超安となりました。中国国内への出店を積極化している外食産業では、回転すしチェーン「スシロー」を展開するFOOD & LIFE COMPANIESが14%安、サイゼリヤも6%超安に沈みました。
さらに、知的財産関連にも影響が及んでいます。サンリオのハローキティやソニーグループのアニメ「鬼滅の刃」は中国で高い人気を誇りますが、今後上映の打ち切りなどのダメージを受ける懸念が指摘されています。
松井証券は、日中双方の主張がかみ合っておらず、関係悪化の長期化懸念から、売りがインバウンドから中国関連銘柄全般に広がっていると分析しています。
渡航自粛要請が発令された時点では、極端に中国の団体旅行客にフォーカスした宿でない限り、秋の集客に直ちに大きな影響は出ていない状況です。紅葉のピークまで1ヵ月を切ったタイミングで問題が起きたため、予約サイトによってはキャンセル料が発生してしまうことが要因として挙げられます。日中関係の悪化に伴って訪日意欲自体には一時的なブレーキがかかったにもかかわらず、既に予約済みの旅行をキャンセルする中国人が比較的少なかった背景にはいくつかの理由があります。まず、中国の旅行者には金銭的ロスを極力避ける傾向が非常に強く、無駄な支出やキャンセル料を嫌い、一度支払ったものを「捨てる」ことに抵抗があるという価値観が根付いています。また、日本旅行そのものが依然として高い価値を持つ消費であり、政治的な関係悪化があっても個人の日本観まで悪化するケースは少ないため、旅行の魅力が損なわれていないことも大きな要因です。さらに、中国国内では政府の意向もあって極端な反日感情が広がるような報道は抑制されており、航空便の運行やビザ条件に変化もなく、SNSでも日本旅行の話題が通常通り扱われているため、旅行を中止すべきという認識が広まっていません。そして決定的なのは、中国人旅行者がきわめて合理的な判断をする傾向が強い点で、実害がなければ予定通り行き、返金不可なら行き、周囲に危険情報がなければ行く、という行動様式が働いていることです。こうした複合的な理由により、関係悪化による心理的なブレーキがかかったとしても、実際に予約済み旅行をキャンセルするという行動にはつながりにくかったのだと考えています。
一方で、現在の状況が完全に収束するまでは、一定の影響が続くことも確かです。特に中国の旅行者はリスクに対して非常に敏感であり、状況次第では判断を大きく変える傾向があります。たとえば、中国の航空会社のように無料でキャンセルできる条件であれば、情勢が不安定なときには迷わず取り消しを選ぶ可能性があります。しかし、日本の航空会社のチケットや宿泊施設のようにキャンセル料が発生する場合は、損失を避けるために旅行を強行するケースもありますが、今後の情勢によっては「キャンセル料を払ってでも取りやめる」という判断に切り替わるリスクもあります。つまり、金銭的ロスを嫌う一方で、不確実性に対しては強い警戒心をもつという旅行者心理が、今後の動向に影響を与え続けると考えています。
東京や京都の観光地では、要請を知りながらも来日した中国人カップルが「治安が良いので特に気にしなかった」と話すなど、政治と観光を分けて考える観光客も存在します。築地場外市場の飲食店経営者も、中国人が減ったという感じはないと述べています。
しかし、問題が長期化すれば深刻な影響は免れません。特に、来年2月中旬に始まる春節への不安が観光地では広く聞かれます。年末のツアー予約は通常であれば全て埋まる時期ですが、要請を受けてすでに12月からのキャンセル連絡が殺到している実態があります。

インバウンドの回復が期待されていた関西地方は、特に深刻な影響が懸念されています。りそな総合研究所によると、関西でのインバウンド消費のうち、中国人が占める割合は35%前後と非常に高い水準にあります。今年のインバウンド消費は約2兆円と推計されており、そのうち大きな部分を中国人観光客が占めています。
大阪では、2025年1月から9月までの推計で、中国から約426万人の観光客を受け入れており[引用2]、これは2024年の同じ時期と比べ1.5倍に上る見込みでした。大阪・関西万博が閉幕し、需要減が懸念されるタイミングでこの問題が長期化すれば、他地域以上に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
大阪市内の旅行代理店では、17日以降、ツア ーの予約取消し連絡が殺到し[※引用3]、わずか3日間で400団体、予約の半分ほどがキャンセルになりました。今回特有の問題として、キャンセル料の負担が旅行会社にのしかかっています。理由が政府による渡航自粛要請であるため、顧客からキャンセル料をもらうことが難しく、バスやホテル、レストランへのキャンセル料金を旅行代理店が支払わなければならない状況にあります。また、中国の大手航空会社3社が年内の日本便のキャンセルを無料にしていることも、大量キャンセルの要因の一つとなっています。
インバウンドで急増した民泊への影響も深刻です。大阪市の繁華街・難波で民泊を経営する中国人経営者は、17日朝から「渡航を控えるよう国から指示があった」という内容のキャンセルを既に2件受けました。また、大阪・西成区の民泊経営者は、利用客の約6割が中国人であり、先週から約500部屋のキャンセルが発生し、収益 約1,000万円の減少につながると試算しています[引用4]。
大阪の飲食店経営者にとっても、2月は閑散期にあたり、春節の訪日客の存在は貴重であるため、「政治的な感情は抜きにして、消費が冷え込む阻害要因は困るというのが本音だ」と危機感を募らせています。
影響は経済活動に留まりません。上海で予定されていた吉本興業による公演が中止になったほか、人気アニメ「クレヨンしんちゃん」の映画の公開延期も決定するなど、エンターテイメントの分野にも影響が出ています。
また、相模原市と江蘇省無錫市の友好都市締結40周年行事では、無錫市の学校の生徒がダンスを披露する予定でしたが、訪日が取りやめになったという事態も発生しました。
ソニーフィナンシャルグループは、最近のインバウンド消費動向として、「団体から個人、モノ消費からコト消費へのシフト、国別構成比の変化など、数年前のような中国人頼みの状況からは変わっている」と指摘しています。このため、中国人観光客の減少によるマクロ経済への影響は限定的となりそうとの見方も示されています。
しかしながら、外国人観光客に依存し、かつ中国人比率の高いサービス業や地域によっては、影響に濃淡が出る点については留意すべきだと警告されています。特に関西地方のように中国人観光客の比率が高い地域では、深刻な影響が予想されます。
日中関係悪化が長期化すれば、広範囲の産業、特に来たるべき春節期の集客に依存する観光・サービス業は、深刻な経営ダメージを受けることが予想されます。これは、個人客へのシフトや消費の変化が進んでいるとはいえ、地域経済の回復にとって大きな試練となるでしょう。
[引用1]https://news.yahoo.co.jp/articles/4e90e30991c886ba0e3b3cf70122fb265e78e2d3
[引用2]https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%AA%E3%81%93%E3%81%A8%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6-%E6%B0%91%E6%B3%8A%E3%81%AB%E3%81%AF%E6%97%A2%E3%81%AB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%82%82-%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E6%B8%A1%E8%88%AA%E8%87%AA%E7%B2%9B%E3%81%A7/ar-AA1QzDzh?cvid=691bcb85cf8d4f73b1e0f44afa90b32a&ocid=hpmsn
[引用3]https://news.yahoo.co.jp/articles/2a59cffaab9b29f8ca153355a0a00125d0222028?page=2
[引用4]https://news.yahoo.co.jp/articles/2a59cffaab9b29f8ca153355a0a00125d0222028?page=2

相続した家をどうするか――。売却して現金化するか、それとも賃貸に出して家賃収入を得るか。多くの方がこの二択で悩みます。しかし、実はもう一つの選択肢があります。それが「民泊」という新しい活用方法です。観光需要の高まりとともに、使われていない家が“人を迎える場所”へと生まれ変わる時代。思い出の詰まった家を手放さず、収益にもつなげられる民泊運営は、相続後の新しいライフプランとして注目されています。
今回は、長期賃貸運用と民泊運用を税引後の実収益ベースで比較し、それぞれのメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 物件 | 木造一戸建て(延床100㎡・築25年) |
| 相続時評価額 | 土地2,000万円+建物500万円 |
| 立地 | 京都市中心部に近い住宅地 |
| 運営方式 | ①長期賃貸(居住用) vs ②民泊(簡易宿所または届出住宅) |
| 青色申告 | あり(個人事業主として申告) |
| 項目 | ① 長期賃貸 | ② 民泊運用(Airbnb型) |
| 稼働率 | 100% | 65%(約240日稼働) |
| 賃料・単価 | 月18万円 | 平均2万円/泊 |
| 年間売上 | 216万円 | 約480万円 |
| 運営経費 | △40万円 | △180万円(清掃・光熱費など) |
| 管理費・手数料 | △10万円 | △30万円(OTA手数料含む) |
| 固定資産税・保険 | △20万円 | △20万円 |
| 減価償却費 | △15万円 | △15万円 |
| 営業利益(青色前) | 131万円 | 235万円 |
| 青色申告控除 | △65万円 | △65万円 |
| 課税所得 | 66万円 | 170万円 |
| 所得税+住民税(30%) | △20万円 | △51万円 |
| 税引後手取り利益 | 約111万円/年 | 約184万円/年 |
民泊は税引後でも賃貸の約1.7倍の手取りが期待できます。
(※モデルケースをベースにした一例)
宿泊単価の通り、この事例は高単価で運用するタイプではありません。リフォームプランを組み込むことによって、より単価の高い民泊を作ることも可能です。上記モデルは低価格~中価格帯の間ほどのイメージです。立ち上げる民泊の質を高めることによって、一般的な家賃の相場の5倍以上というケースもあり、2倍、3倍程度は珍しいことではありません。
| 観点 | 長期賃貸 | 民泊 |
| 税制優遇 | 青色控除・貸家評価あり | 経費範囲広いが消費税課税あり |
| 安定性 | 高い(固定家賃) | 変動大(稼働・季節依存) |
| 管理負担 | 低い(委託可) | 高い(清掃・顧客対応) |
| 法規制 | 緩い | 民泊新法・旅館業法・消防対応必要 |
| 相続税評価 | 貸家評価で減額可 | 旅館業用途は対象外のことも |
| 金融評価 | 安定資産として強い | 事業リスク高く審査厳しめ |
今回の事例では、一戸建てを想定しています。月額18万円という設定からも、ある程度の広さがあり、交通の便も比較的良い立地を想定しています。法規制については、管理会社や行政書士などの専門家が対応するため、旅館業としての基本的な条件を満たしていれば大きな障壁にはならないでしょう。安定性の面では、災害や景気の影響を受けやすい民泊よりも賃貸の方が優位といえますが、家賃が固定されているとはいえ、空室リスクがまったくないわけではありません。
| 税目 | 長期賃貸 | 民泊 |
| 所得区分 | 不動産所得 | 事業所得または雑所得 |
| 消費税 | 非課税 | 売上1,000万円超で課税事業者 |
| 相続税評価 | 貸家評価で減額 | 減額対象外になる場合あり |
| 経費範囲 | 修繕・保険など | 清掃・光熱・OTA手数料など広範 |
| タイプ | 向いている人 |
| 🏡 長期賃貸型 | 安定収入・手間をかけたくない人/相続税対策を重視する人 |
| 🏨 民泊運用型 | 観光地立地で稼働率が高い人/収益最大化を狙う人 |
| 観点 | 賃貸 | 民泊 |
| 税引後収益 | 約111万円 | 約184万円 |
| 利回り(評価額2,500万円) | 約4.4% | 約7.4% |
| 運営負担 | 少 | 多 |
| リスク | 小~中 | 中~大 |
・短期的な利益重視 → 民泊
稼働率65〜70%以上を維持できれば、手取りは賃貸の1.5〜2倍。これはあくまでもサンプルモデルをベースにした一例です。一定の売り上げ規模になってくると消費税課税もあります。大きな災害等による影響は大きいが、その時は賃貸への転用も可能である。
・長期的な安定運用・節税重視 → 賃貸
貸家評価による相続税圧縮や管理負担の少なさが魅力。将来の相続にも有利に働くケースが多い。民泊と比較するとリスクは少ない印象ではあるが、賃貸運営にも家賃滞納、入居者トラブル、原状回復などのトラブルはつきもの。

― 不動産価格高騰時代に考える、相続不動産の賢い活用法 ―
近年の物価上昇や不動産価格の高騰により、「新たに物件を購入して民泊や簡易宿泊施設を開業したい」という相談は、ここ1〜2年でやや落ち着きを見せています。
10年前、京都に民泊が少しずつ誕生し始めた頃と比べると、初期費用(物件取得・改装・備品購入など)は体感で数倍に膨らんでおり、「よし、民泊を始めてみよう」と思い立っても、5,000万円〜1億円規模の投資が必要になるケースも珍しくありません。
確かに宿泊単価も上がっていますが、同時に物価や人件費も上昇しており、借入や返済を考えると心理的なハードルも高いのが現実です。
その一方で、最近では「相続した物件」や「オーナーチェンジ物件」に関する相談が増加しています。
中でも特に注目されているのが、相続した家をどう活用するかというテーマです。
本記事では、「相続した家をすぐ売るべきか」「保有して運用すべきか」について、メリット・デメリットの両面から整理してみます。

① 相続税や維持コストの負担を早期に解消できる
不動産を相続すると、相続税評価額に基づいて税金が課されます。
相続税の納付期限(相続開始から10か月以内)までに現金化できれば、納税資金の確保が容易です。
また、保有を続ければ固定資産税・都市計画税・火災保険・修繕費などの維持コストが毎年発生します。
これらの負担を早期に回避できる点は、売却の大きなメリットといえます。
② 不動産価格下落リスクを回避できる
地域や築年数によっては、今後の資産価値が下がる可能性もあります。
特に人口減少地域や老朽化した建物では、早期売却が高値売却につながるケースも多いです。
ただし、京都市中心部のような人気エリアでは、中期的には資産価値が安定または上昇する可能性が高く、一概に「すぐ売るのが得」とは言い切れません。
③ 相続人同士のトラブルを防止できる
複数人で相続した場合、共有名義のまま不動産を保有すると、管理・修繕・売却の判断で意見が分かれることがあります。
売却によって現金化すれば、分配が明確になりトラブル防止につながるという点も見逃せません。

① 譲渡所得税の負担が発生する可能性
相続した不動産を売却する場合、「被相続人の取得時期・取得費」を引き継ぎます。
被相続人が取得してから5年未満の場合は**短期譲渡扱い(税率約39%)**となり、売却益が大きいほど税負担が重くなります。
ただし、被相続人が長期保有していた場合は「長期譲渡」として軽減税率が適用されることもあるため、個別に確認が必要です。
② 居住用財産の特別控除が使えない場合がある
「居住用財産の3,000万円特別控除」は、一定の条件を満たせば相続後の売却でも利用できます。
しかし、長期間空き家のまま放置した場合や、構造・用途に変更があった場合は対象外となり、控除が使えず税負担が増えることもあります。
③ 将来的な資産価値上昇の機会を逃す
再開発エリアや観光需要の高い地域では、今後地価上昇や賃貸需要の拡大が見込まれる場合があります。
このような物件をすぐに売却してしまうと、将来得られるはずの賃料収入や値上がり益を逃すことになります。
① 固定資産税・都市計画税の軽減(住宅用地特例)
相続後に不動産を賃貸住宅として運用する場合、土地の固定資産税が最大6分の1に軽減されます。
空き家のままではこの特例を受けられませんが、賃貸に出せば軽減対象となります。
② 相続税評価額の圧縮効果(貸家評価)
賃貸住宅として貸し出すと、土地と建物の評価額を引き下げることができます。
たとえば、借地権割合60%、借家権割合30%の地域では、土地評価が約18%減・建物評価が約30%減になるケースもあります。
これは相続税の節税効果が大きく、さらに継続的に賃貸していれば次の相続(2次相続)でも有利になります。
③ 経費計上・減価償却による所得税の節税
賃貸経営では、建物部分の減価償却費や修繕・リフォーム費用、仲介手数料、管理費などを経費として計上できます。
青色申告を行えば、65万円の特別控除や赤字繰越も活用可能で、所得税・住民税の節税に大きく寄与します。
相続した不動産をどう扱うかは、年齢・家族構成・ライフプラン・資金状況によって最適解が異なります。
一般的には、
といった条件であれば、すぐ売却するよりも賃貸運用を選ぶ方が、資産形成と節税の両面で有利です。
おわりに
不動産の売却は一度きりの選択ですが、運用には将来の柔軟性があります。
相続した家を単なる負担ではなく、「資産」として活かすためには、まず売却・賃貸・民泊運用の3つを冷静に比較検討することをご提案しています。
次回は、相続した家を「賃貸運用」する場合と「民泊(簡易宿泊)」として運営する場合の違いを、収益性やリスクの観点等から比較してみたいと思います。

大阪での特区民泊の新規受付停止は、民泊業界における重要な転換点となっています。観光需要の高さと地域住民との調和という二律背反する課題が極限に達した結果であり、その影響は全国の自治体、特に厳しい条例を持つ京都エリアにとって無視できないものとなっています。本記事では、大阪の特区民泊の背景、新規受付停止の動き、そして条例の厳しい京都エリアへの影響の可能性について考察します。
目次

国家戦略特別区域法に基づく「特区民泊」は、マンションの一室や一軒家を宿泊施設として通年で営業できる制度です。民泊新法(住宅宿泊事業法)の年間180日という上限規制を受けない自由度の高さが特徴となっています。2025年6月末時点で全国8自治体計6,899件が認定を受けていますが[引用1] 、その約95%が大阪市に集中するという異常事態となっていました。
大阪市が特区民泊を導入したのは、大阪・関西万博の開催を控え、宿泊施設の不足が懸念された平成28年10月です。大阪は、大阪城や道頓堀などの観光名所に恵まれ、さらに関西国際空港や外国人に人気の高い京都にもアクセスしやすいという立地上の優位性がありました。令和6年に大阪府内を訪れた訪日客は1,459万1千人にのぼり、訪日客全体の約4割を占めるほどの高い宿泊需要が存在します。
このような需要を背景に、特区民泊は「賃貸物件より稼げ、宿泊業としては旅館、ホテルより始めやすい」とされ、圧倒的に参入ハードルが低いことが強調されてきました。宿泊予約システムや清掃(ベッドメイキングなど)の代行業者が存在するため、運営が比較的容易であることも参入を加速させました。さらに、事業がうまくいかなかった場合も賃貸に切り替えられるという稼ぎやすい仕組みが整っていたため、海外からも注目され、外国人の不動産取得の素地にもなりました。
大阪市は、社会問題化していた旅館業法の許可を得ない「ヤミ民泊」に対応するための一側面として特区民泊を導入し、今年4月末までに、特区民泊への移行や廃業を含め、6,539件で違法状態の解消を実現したという側面もありました。
しかし、特区民泊の拡大とともに、騒音やごみ出しを巡る地域住民とのトラブルが顕在化しました。特に、特区民泊の認定を規制する規定がないことから、今年6月下旬には大阪市此花区で全212室が特区民泊のマンションが開業するなど、大規模化が進んだことが問題視されています。大規模な施設が増えることで、宿泊客の増加に伴いトラブル発生の可能性が高まるという懸念が住民から示され、実際に未明の消防出動や宿泊者の水難事故なども発生しています。
複数の民泊関係者は、こうした特区民泊の大規模化の背景を、状況が変わり「第2段階に入った」ためだと指摘しています。事業としての採算性や課題点が整理される中で、資本力がある企業も参入する地ならしが進み、テレビCMを展開するような事業者も目立つようになっています。同時に、民泊の適地も限られ始め、素人では参入できない状況となり、サービス面で差別化できない施設は淘汰される可能性があるという指摘も出ています。
こうした状況を受け、大阪市は地域住民への影響を考慮し2026年5月30日以降、特区民泊の新規申請受付を停止する方針を固めました。大阪府が管轄する政令市・中核市を除く29市町村もこの流れに乗り、「全域で取りやめる」方針を固めており、大阪全域で規制の波が広がる見通しです。
今回の大阪での規制強化の動きは、特区民泊を持たないものの、観光需要が高く、既に厳格な条例を持つ京都エリアにとって、今後の宿泊施設政策を考える上で重要な前例となります。
京都では、特区民泊がない中で高い宿泊需要に対応するため、民泊新法に基づく施設(ただし規制がかかる)の他、手続きや運営が簡素な旅館業法に基づく簡易宿所が増加しており、約3千件が営業しています[引用2]。これは、京都が全国的に見ても条件が厳しい地域であるにもかかわらず、宿泊需要の高さから施設が増加した結果と言えます。
しかし、京都は現在、インバウンド増加による混雑(オーバーツーリズム)が深刻化しており、その結果、宿泊料が高騰し、日本人観光客の「京都離れ」が起きています。2025年1〜7月の日本人宿泊者は、前年同期比で10%を超える減少率となり、2024年も2年連続で10%超の減少となる可能性が示唆されています。これは、全国的に国内旅行需要が減少し、海外旅行にシフトし、国内では万博などに局所的に人が集まる一方で、それ以外は減るという需要の二極化が進んでいる傾向の一部でもあります。
特区民泊の受付停止が、法律である旅館業に対してすぐさま大きなメスを入れる事態にはなりにくいと想定されますが、自治体ごとにこうした流れに乗って規制の動きが広がる可能性は十分にあります。

施設数の規制とは別に、京都府内では、観光財源の確保やオーバーツーリズム対策を目的とした新たな規制や課税の動きが進んでいます。京都市では、宿泊料金に応じて最高1万円を徴収する宿泊税を導入する予定です。また、京都府北部にある宮津市も府内2例目となる宿泊税の導入を検討しており、宿泊者1人1泊あたり200円を徴収する案が議論されています。
宮津市が宿泊税を目指す背景には、人口減少が進む中で、プロモーションや夜間観光の充実、多言語案内などの新規事業に約2億円の財源が必要という試算があり、市税収入の減少が見込まれる中で「安定的に財源を確保できる宿泊税が妥当」との判断があります。
ただし、この宿泊税の導入には宿泊事業者間で賛否が分かれています。宿泊客が年間83万人に対し、日帰り客が217万人と2倍以上いる現状で[引用3] 、宿泊客のみに負担が増えることへの「納得できない」という意見や、将来のオーバーツーリズム対策が必要となる可能性や、観光客の満足度を上げてリピーターを増やすため、きめ細かな制度設計と丁寧な説明が必要であるという意見が出ています。また、日帰り客からの徴収についても検討する余地があるという指摘もあります。
大阪の特区民泊停止は、自由度の高かった民泊形式の規制強化という点で大きな流れを作り出しました。これにより、宿泊事業は、資本力のある企業による大規模化、あるいは、条例や税制による自治体の管理下での運営という、より厳格なフェーズへと移行することが予想されます。京都エリアでは、既存の厳格な旅館業法に基づく簡易宿所運営に加え、宿泊税による負担増や、日本人観光客の回復という新たな課題に直面することとなり、今後、自治体による観光施策やまちづくりの提言がより重要になると見られます。
[引用1]https://www.sankei.com/article/20250820-N2WICWQOYFPXTILPPOWU6SVEXE/
[引用2]https://www.sankei.com/article/20250820-N2WICWQOYFPXTILPPOWU6SVEXE/
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