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大阪・関西万博が創る新たな成長機会~「大阪銘柄」の躍進と関西観光の未来~

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2025年の大阪・関西万博は、開幕から約2カ月半で来場者数1000万人を突破し、日本経済、特に大阪圏の企業に千載一遇の成長機会をもたらしています。万博会場は日本企業が技術力や新規事業を国内外にアピールする絶好の舞台となり、建設業や物流業から外食産業、エンターテインメント分野、さらにはスタートアップ企業まで、幅広い業界に波及効果をもたらしています。

回転寿司業界の海外展開加速

万博会場では、日本の和食ブームを牽引する回転寿司チェーンが世界に向けて魅力を発信しています。
くら寿司(2695)は、田中邦彦社長が「世界に回転レーンのサービスを知ってもらいたい」と語るように、万博出店を海外展開の重要な足がかりと位置付けています。タッチパネル注文が普及する中でも、「プレゼントシステム」のようにレーンを使ったサプライズ演出など、回転レーンの可能性を追求し、万博店では世界の料理をサイドメニューに取り揃える試みも行っています。同社は海外事業で米国と台湾に注力し、特に米国では80店舗近くを展開して100店舗を目指しており、独自の「ビッくらポン!」などのアイデアは海外でも好評を得ています。
FOOD & LIFE COMPANIES(3563)「スシロー」は、万博会場の「スシロー未来型万博店」で提供する水産物を100%養殖にすることで、SDGsを意識した持続可能な経営をアピールしています。同社は中華圏と東南アジアを中心に海外展開を加速しており、2025年6月末には海外店舗数が212に達し、2026年9月末には310〜320店舗への拡大を目指しています。

先端技術が創る新たなビジネス機会

万博会場では、多様な分野で日本企業の技術力が披露され、新たなビジネス機会の創出に直結しています。
パナソニックホールディングス(6752)は、自社パビリオン「ノモの国」で「モノの裏側には人の心がある」というコンセプトのもと、回収したドラム式洗濯機のガラス蓋を再利用した床ブロックや、スピーカー27台による立体音響で没入感を演出しています。特に注目すべきは、バクテリアを使って光合成を促すことで植物の実を増やす、化学肥料を使わない農業技術を展示し、すでにサウジアラビアやUAEから商談が寄せられるなど、万博がビジネス機会創出に直結している点です。


出典: 2025大阪・関西万博 パナソニックグループパビリオン「ノモの国」紹介
椿本チエイン(6371)は、「大阪ヘルスケアパビリオン」で、同社が新規事業として開発に取り組む「電動アシストスーツ」を着想源とした「着るロボット」の展示を通じて、来場者がVR映像と共に身体能力を高める体験を提供しています。
カプコン(9697)は「モンスターハンター」の世界観をARや立体音響で体験できるシアター型施設を展開し、ゲーム未経験者にも認知度向上を図っています。同社は旧作活用戦略により、9期連続での最高益更新を見込んでいます。
岩谷産業(8088)は、万博会場とUSJ近くを結ぶ水素燃料電池船「まほろば」を運行し、水素を将来の収益の柱として世界にアピールしています。これは新たな交通手段の提案と同時に、環境技術の実証実験としても重要な意味を持っています。


出典:「まほろば」公式予約サイト

建設・物流業界への波及効果

万博会場を象徴する大屋根リングは、日本の伝統的な接合技術を用いたギネス世界記録認定の最大の木造建築物であり、大林組や竹中工務店などが建設に携わっています。鉄建(1815)は、スイス館やオーストリア館の建設を請け負い、万博を契機にパビリオン移設の新しいビジネス機会も得ようとしています。
物流を支える山九(9065)は夢洲に広大な物流用地を持ち、万博関連やIR建設の資材置き場として稼働率ほぼ100%を維持し、安定収益源として期待されています。浅沼組(1852)はオランダ館の建設で環境配慮型コンクリートを使用し、万博後もIR建設に参画するなど、大型プロジェクトの恩恵を受けています。

関西圏観光・宿泊産業への複合的影響

京都のオーバーツーリズムと日本人客離れ

万博が観光・宿泊産業に与える影響を理解するためには、まず関西圏の観光の現状を把握する必要があります。京都では外国人観光客が過去最高の1088万人(2024年)に達し、円安を追い風に宿泊客数も日本人を初めて上回るなど、インバウンド特需に沸いています。
しかし、深刻なオーバーツーリズム(観光公害)により、日本人が国内の有名観光地を敬遠する動きが顕著になっています。2024年秋には金閣寺や哲学の道など主要観光地で日本人客が減少しており、京都市内のホテルにおける日本人の宿泊者数も2023年4月以降一貫して前年同月を下回っています。
この日本人客離れの背景には、「混雑が嫌」という心理に加え、物価高騰や宿泊費の高騰、外国人客増加による予約の取りづらさといった複合的な要因があります。観光庁の統計でも、日本人延べ宿泊者数は11ヶ月連続で減少しており、宿泊料の伸びは物価全体の変動を大きく上回っています。

万博による観光分散と新たな機会創出

このような状況において、大阪・関西万博が観光・宿泊産業に与える影響は多面的です。
観光客の分散効果として、万博会場は広大で、来場者は1日では回りきれないほど多くのパビリオンがあります。万博が提供する多様な体験やエンターテインメントは、京都のような既存の観光地への一極集中を緩和し、観光客を大阪圏に誘引し、地域全体での観光客の分散を促す可能性があります。これにより、京都のオーバーツーリズム問題に対する間接的な解決策となることも期待されます。
周遊観光の促進という観点では、万博という国際的なイベントは、大阪のみならず、近隣の京都、奈良、神戸といった関西全体の認知度向上にも繋がり、広域での周遊観光を促進する契機となるでしょう。来場者が万博に合わせて関西に滞在することで、万博以外の地域の魅力を発見する機会が増える可能性も秘めています。
宿泊産業への恩恵については、万博期間中およびその後のIR開発は、大阪圏での宿泊需要を大幅に増加させます。これは、京都市内で日本人宿泊客が減少している状況とは対照的に、大阪では高い稼働率と客単価を維持する要因となり得ます。また、大阪周辺の宿泊施設にも恩恵が波及する可能性があります。

持続可能な成長モデルの構築に向けて

大阪・関西万博とそれに続く大型プロジェクトは、大阪を拠点とする企業群に新たな成長機会をもたらし、「大阪銘柄」としての価値を高めています。同時に、これは関西地域全体の観光・宿泊産業にも波及効果をもたらす可能性を秘めています。
京都で顕在化している「日本人客離れ」といった課題がある中で、万博が観光客の分散や新たな周遊ルートの創出に繋がり、関西全体の持続可能な観光モデル構築に貢献することが期待されます。各企業は、万博を新たな投資テーマを発掘し、収益貢献には時間がかかる内容であっても、未来社会の具体的な姿を来場者に体感させる場と位置付けているからです。
万博を契機とした新たな交通手段や観光ルートの開発は、これまでアクセスが難しかったエリアや、工場地帯のイメージが強かった夢洲周辺のイメージを変え、新たな観光地としての魅力を引き出すことに貢献しています。岩谷産業の水素燃料船「まほろば」は、その象徴的な例です。
日本が掲げる2030年訪日客6000万人目標達成に向け、万博は単なるイベントを超え、地域経済と観光の未来を拓く重要な試金石となるでしょう。企業の技術革新、観光産業の構造変化、そして地域経済の活性化が一体となって進むこの時代において、大阪・関西万博は新たな成長モデルの象徴として、その真価を発揮し続けています。

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