Q&A

京都市における旅館業の移り変わりとは?

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宿泊施設にはいくつかの種類があり、それぞれに異なる仕様や条例があります。
それらに簡単に触れた後で、旅館業の変化が古都京都においてどのように行われて来たのか、どのような影響があったのか考えてみたいと思います。

まずはおさらい、宿泊をする施設の特徴

詳しくは、「旅館・ホテル、簡易宿泊所、民泊の違い」 にありますが、ここでもざっとおさらいをしていきましょう。ホテルと旅館は、以前は旅館業において明確に区別されていました。しかし2018年の6月の法律の施行をうけて、「和室(旅館)も洋室(ホテル)も7㎡以上あれば構わない(ただし一部条件はある)」と変更になりました。また、ホテルは10室以上の部屋を、旅館は5室以上の部屋を持たなければならないという決まりもなくなりました。

これらと対をなすかたちでよく取り上げられるのが、「簡易宿泊所」です。これは、1つの場所に多くの人が寝泊まりするかたちをいいます。カプセルホテルなどがこれにあたります。また、「民泊」も出てきました。これは、「1年で180日以内までしか営業してはいけない」とされています。営業日数等に制限を設ける代わりに設備面で一部緩和されています。初期費用が少し抑えられるだけで、年間の営業日数が半分になります。建物の一部の空き部屋活用、ホームステイの受け入れ感覚、条例の規制等により民泊でしか営業ができない、といった理由以外で「民泊」という選択肢を取る方は、ほとんどいないように思います。

旅館業法の変化とその影響について

旅館業法の移り変わりは、一気に旅館・ホテル業界を変化させました。旅館業法は2018年の6月に新たに施工されましたが、これにより、旅館・ホテルの新規開館が一気に増えたのです。2018年の11月の段階で、すでに2017年の新規数を上回っていたとされています。

新規で増えていく施設は、圧倒的に簡易宿泊所が中心でした。新規にホテルを建築するより安価でランニングコストも抑えられるという手軽さから、企業はもちろん、副収入を考える一般の方々も多く、この業界に参入してきました。しかしながら、条例の改定を受けて、営業許可取得のハードルが上がり、運営条件を満たす為のランニングコストも増加、さらに宿泊税の徴収負担も課されることになり、簡易宿泊所の新規許可件数は減少傾向にあります。京都市内でインバウンドを牽引してきた「簡易宿泊所の新規件数」が、ほぼ横ばいで推移するようになったのです。

簡易宿泊所において、新規の参入障壁が上がってしまった最も大きな要因があります。宿泊施設まで10分で駆け付けることを条件にしていたものが、施設から道のり800m以内に管理者を置く、或いは、管理者に加えて宿泊者の受付を行う施設を設けなければならないというものです。交通手段を指定していない10分と道のり800mの差は非常に大きな変更であり、大半の施設がこの影響を大きく受けることになるでしょう。土地・施設の購入から改装、各種申請まで数千万円~数億円という予算を投じる事業。しかしながら、新条例の影響を受けずに営業できる経過処置期間はたったの2年程。実質、2018年9月以降に申請する施設はすべて新しい条例に適応する必要がありそうです。

京都でも行政をあげてホテル誘致を行ってきた

ホテル・旅館に対して、旅館業法は改訂を経たことで緩和傾向に動いたと思われます。冒頭では「客室数」「客室の広さ」を取り上げました。また、景観に関する配慮の部分で厳しい条件を課すようなイメージを持っていた同業者や地元の方は多かったのではないでしょうか。しかし、いざホテルの建設が進み、その完成した姿を見ると、東京や大阪などと同じようなホテルが次々と誕生。東山界隈でも、伝統的な京町家や窯が次々と取り壊され、その跡地に大きなホテルが立ち並ぶようになりました。京都市のホテル誘致と景観保護のバランスに疑問の声が上がっているのも事実です。

京都市の旅館業に対する条例改定が宿泊業に対してどのような影響を与えるのかについて、さまざまな憶測が飛び交ってしますが、参入障壁が上がる分、既存の簡易宿泊所においては、競合誕生の抑制に繋がる可能性はあるかもしれません。一方で、最寄りの管理会社なくして営業ができなくなる施設も多いでしょうから、宿泊施設の管理会社が拠点を置く京都駅、東山、河原町、烏丸あたりに宿泊施設が集中してくる可能性もあるでしょう。つまり、これまで以上に観光客が特定の箇所に集中し、より大きな交通渋滞を招く可能性があるということです。これは京都市が目指す観光の分散化施策に対して、市が自ら歯止めをかける形になってしまうかもしれません。

中心部はホテルの数もかなり増えて、ビジネス・観光の両面で人気の四条烏丸周辺なら平日(朝食付き)で5,000円前後、一駅ずらして大宮まで足を延ばせば3000~4000円程という価格で宿泊が出来るホテルもあります。これは、宿泊客側にすれば、宿泊先の選択肢が増える上に、食事、体験、買い物に予算を残せるというメリットがあります。一方で、サービスを提供する側では、常に過当競争という言葉を意識している状況になっていると思われます。

2018年の12月の段階で、2020年に4万2000室という試算を示していた京都市。しかし、実際には5万室を超えることを発表。それでも、高級施設を中心に引き続き誘致するとしています。京都市がどのように周辺エリアへ観光客を誘導するのか、その動向にも注目が集まっています。